No.4(東)東地中海世界の諸民族
しま:フェニキア、アラム、ヘブライ…フェニキア、アラム、ヘブライ…ニンニク、マシマシ、アブラ、オオメ…アジウスメ…
生徒:え!?とうとうおかしくなっちゃったんですか先生!?
しま:いや、ただの深夜テンション。
生徒:ちょっと!集中してくださいよ!あと、にんにく増してあぶらも多めにしてるやつは絶対に味も濃いめにしますからね!
しま:はい。今日やる東地中海世界の諸民族は、フェニキア人とアラム人とヘブライ人。だからとにかく、フェニキア、アラム、ヘブライと唱えよう。
生徒:これもまた、それぞれの民族のポイントを整理する感じですか?
しま:そうだね。センター試験はこうやって同じタイミングで登場してくる民族と、その特徴(キーワード)をごちゃ混ぜにして出題してくる。じゃあまずはフェニキア人から!キーワードは“地中海貿易”だ
生徒:ほぉ!ってことは、地中海に面しているところを拠点に活動していた人たちですか?
しま:その通り!彼らはシドンやティルスといった都市国家を建設し、そこを拠点に地中海貿易を行っただけじゃなく、海外支社として北アフリカにカルタゴなどの植民都市を建設した!カルタゴはあとで、ローマと死闘を繰り返すことになるから、頭の片隅に残しておいてね!ちなみに、フェニキア人が住んでいたのは現在のレバノン!当時は水を染みこませない“レバノン杉”が豊富で、それで舟をつくってました!以上。
生徒:次はアラム人ですね!
しま:フェニキア人が“地中海貿易”で栄えたのに対し、アラム人は“内陸・中継貿易”で栄えたんだ!で、アラム人の拠点はダマスクスという都市!内陸貿易の拠点だから海には面していないよ。ちなみにダマスクスは、ダマスカスとも言われます。
生徒:え?黙れカス?
しま:言ってないわ!あ!一つ言い忘れてた。…フェニキア人とアラム人ってそれぞれ文字を使っていたんだけど、フェニキア文字はギリシアに伝わってアルファベットの原型になった。アラム文字は西アジアの国際商業語になる!“西アジア”って言ってもオリエントから見たらさらに東の方向だから、間違えないように。
生徒:OKです!
しま:さぁ、ラストはヘブライ人だ。ヘブライ人のキーワードは“出エジプト”…いや、ユダヤ教でもいいかもしれない!とにかく映画にもなってる有名な話が出てくるから、油断せずしっかり聞くように!
生徒:はい!!!
しま:…あ、ちょっと待って、くしゃみ出そう………ヘ…ヘッ…ヘッ…ヘブライッ!
生徒:なんて都合の良いくしゃみ!
しま:全く…なんで頑張っている俺がこんな目に合わなきゃならないんだ…
生徒:大丈夫ですよ先生!きっと神様は見てくれていますから!
しま:そう?…じゃあ気を取り直してヘブライ人の歴史を見ていこう!ヘブライ人はもともと前15世紀頃にパレスチナに定住していた。その一部が肥沃な土地を求めてエジプトに移住したんだ!さて、前13世紀頃と言われてエジプトが何時代だったか思い出せるかな?
生徒:はい先生!新王国ですね!
しま:おっ、良いじゃん!エジプト新王国のファラオはヘブライ人をよそもの扱いして、とことん虐げる。強制労働させたりして苦しめるんだ!ちなみにこの時の王は、あの”征服王”でお馴染みのラメス2世ね。
生徒:ヘブライ人はエジプトから逃げられないんですか?
しま:いい発想だね。ヘブライ人は、モーセという人物に導かれて、エジプトから脱出するんだ。この出来事は『旧約聖書』に書かれていて“出エジプト”と言う。さて、逃げたヘブライ人…しかし、目の前に紅海が広がっていてこれ以上前に進めない!後ろを振り返ると、追っ手のエジプト軍がすぐそこに!!!さぁどうする!?と、その時、モーセが持っていた杖を紅海にかざすと、なんと海が真っ二つにパッカーンと割れて、海の中を歩いて渡ることができるようになった!
生徒:すごっ!
しま:さて、海を渡ったヘブライ人一向は、シナイ山という山に登り、そこで神からの10個の戒めを授かることになる。この戒めを“十戒”というんだけど、この神との契約が、のちのユダヤ教の基本原理となる。
生徒:あ、先生!確か『十戒』って映画ありますよね!?あれ、見ようと思うんですけど、おもしろいですか?あの映画。
しま:めっちゃおもしろいよ!ただ4時間あるから、受験生は合格してから観るように。
生徒:どひゃーーーん!長っ!
しま:さて、神への信仰と十戒を持つようになったヘブライ人は、前10世紀に自分たちの国をつくります。ヘブライ王国です。首都はイェルサレム。で、ヘブライ王国は、ダヴィデ王とその子ソロモン王の時代に中継貿易で栄えるんだけど、その後は南北に分裂!北に成立したのがイスラエル王国(前932~前722)で、南にできたのがユダ王国(前932~前586)イスラエル王国は、この後オリエントを統一するアッシリア帝国によって征服されて滅亡します!ユダ王国はこの時はなんとか生き延びるんだけど、アッシリア滅亡後にできた新バビロニア王国によって征服されます!そして、新バビロニアは征服したユダ王国の民をバビロンまで強制移住させる!この事件を「バビロン捕囚」と言う。この時の新バビロニアの王はネブカドネザル2世と言うからしっかり覚えておこう!
生徒:先生!ちょっと待ってください!簡単に“バビロンまで強制移住”って言いましたけど、当時のことですからもちろん歩きですよね??
しま:そうそうざっと1500km。神奈川から沖縄くらいの距離だね。しかも舗装されたコンクリートの道じゃなくて砂漠よ。
生徒:おそろしや…
しま:もちろん途中で倒れてそのまま亡くなった人も大勢居る。ヘブライ人はこれを深刻に受け止めます。
「なぜだ!なぜアッシリアという強国の攻撃にも耐え凌いだ我々が、こんな目に遭っているんだ!」ってね。
生徒:そりゃそうですよ!一時は強かったわけですし、神から授かった十戒もちゃんと守っているのにこんなひどい目に遭ってるんですもん!神様なんて信じられなくなります!
しま:ところがヘブライ人、全く逆の発想をする。
生徒:え?
しま:「私たちは、預言者モーセが授かった神の戒律を、本当にきちんと守って暮らしていただろうか…、本当にヤハウェのみに信仰を捧げていただろうか…」ってね。そりゃ、人間ですから自分の生活を思い返せば、思い当たる節がいくらでも出てくるわけですよ。そして、自分がちゃんとしてなかったから、神は今こんな試練を与えているんだ!というふうに考えたわけです。
生徒:なるほど…ものは考えようってやつですね。
しま:新バビロニアが滅んでやっと、ヘブライ人はふるさとに帰ることが許されます。帰った人々はヤハウェの神殿を再建し、前よりも熱心に戒律を守るようになります。これをもって、ユダヤ教成立です。
生徒:ユダヤ教って…ヘブライ人の受難の歴史のもとに生まれた宗教なんですね。
しま:ちなみにユダヤ教を信じる人のことを“ユダヤ人”と言います。日本人やアメリカ人とはだいぶ意味が違うのが分かるかな?ユダヤ人にとってのアイデンティティはユダヤ教なわけです。
生徒:先生!ユダヤ教の特徴をまとめていただけると助かります!
しま:最大の特徴は、何といっても一神教!ちなみにキリスト教やイスラム教も一神教だけど、二つともユダヤ教から生まれたものだからね。
生徒:へぇ…。あ、でも先生!僕、ヤハウェの神なんて見たことないですよ?資料集にも載ってないし…
しま:それが二つ目の特徴!ずばり“偶像崇拝の禁止”です。これは日本人には理解しにくいかもしれない!信仰の対象を絵に描いたり、彫刻を作ったりしちゃいけなんです!なんでダメかっていうと、ヤハウェしか信じちゃいけない一神教だからです。例えば、ヤハウェを彫刻にしてそれを拝むとする。はい、問題。拝んでる人は何を拝んでいますか?
生徒:彫刻…ですか?
しま:そう!目の前にある彫刻を拝んでいるんです!ヤハウェじゃないものを神として拝んでいる!だからいけないんだ!この“偶像崇拝の禁止”は当然キリスト教とイスラム教にも受け継がれています。
生徒:なるほど。これは、信仰心が強くないと難しそうですね。
しま:三つ目の特徴が“選民思想”です。これはバビロン捕囚のところで話したね。「神は自分たちを選んでいるからわざわざ試練を与えてくれているんだ」ってやつね。四つ目の特徴が「いつか救世主が現れて自分たちを救い出してくれる」という“救世主の出現”。そして最後に『旧約聖書』だ!旧約ってのは、神との“旧い契約”って意味ね!じゃあ新しい契約は何?って言うと『新約聖書』。これはキリスト教の立場から見た、イエスと神との“新しい契約”だ。
生徒:先生…“旧約”と“新約”のこと、ずっと“旧訳”と“新訳”だと思っていました…。翻訳し直しました、みたいな…恥ずかしい。
しま:よくある間違いだね。神との契約!って覚えておけばもう間違えることは無いでしょう!はい!というわけでヘブライ人のお話もおしまい!