読む世界史

書き残そう、世界の歴史の物語

No.9(東)仏教の誕生

しま:この世は苦しみに満ちています。生まれること。老いること。病むこと。死ぬこと。すべてが苦しみです。愛する人と分かれる苦しみ、嫌いな人と合わせなければならない苦しみ、求めても得られない苦しみ、苦しみをコントロールできない苦しみ…

 

生徒:あれ、先生が病んでる…。

 

しま:これが仏教の教えなんですよ。では、この苦しみの原因はどこにあると思いますか??

 

生徒:え!?…そんなの、みんな年取りたくないと思うだろうし、病気にもなりたくないだろうし、できればお金持ちになりたいって思ってるだろうし…

しま:そう。苦しみの原因は全て心の中にあるんです。何かに対する執着心。それが苦しみや悩みの種なのです。これを“煩悩”と言います。

 

生徒:…ってことは、煩悩を消し去ることが仏教の目標ってことですか?

 

しま:そういうこと。そして、煩悩を心からなくした人格を、仏陀(=目覚めたもの)と言うんです。

 

生徒:ブッダ!聞いたことありますよ!仏教の開祖ですよね!

 

しま:そう。つまり、ブッダは名前じゃないんだよ。誰でも心から煩悩を消し去れば…、つまり“悟る”ことができればブッダになれる!

 

生徒:なるほど!ちなみにブッダの本名はなんていうんですか?

 

しま:ブッダの本名はガウタマ゠シッダールタ。この人は釈迦族の王子でした。だから、お釈迦様なんて呼ばれたりもします!

 

生徒:え?王子??王子だったら裕福ですよね?なんでそんなに苦しみを感じちゃうんですか??
 

しま:良いところに目を付けたね。よしっ!それじゃあちょっとだけ、ガウタマの生涯について話すことにしよう!ガウタマは釈迦族の王子として、母親の右脇からポンと生まれます。その直後に七歩歩いて、右手で天を指し、左手で地をさして「天上天下唯我独尊」と言いました。さて、人相見がやってきて王子を抱きかかえると、次のように予言をします。「王子は、家にあれば、全世界を武器を用いず徳によって征服する偉大な王(転輪聖王)になるであろうし、また、出家をすれば、精神界の王として、人類を救済するブッダとなるであろう。いずれにしても、すでに年老いた私は、この方の成人された姿を見ることができない。そう思うとつい悲しくなって涙がこぼれたのである」と。王位を継いで欲しいと思っていた親は、ガウタマに世の中の辛さや醜さを一切見せないよう、王宮に閉じこめて、贅沢三昧させました。しかし、どうでしょう。ガウタマは満たされた生活に心の寂しさを感じ始めます。そんなある日、ガウタマは門を出たところでたまたま老人や病人を眼にしてしまい、この世の中には生きる苦しみ、老いる苦しみ、病む苦しみ、死ぬ苦しみという四つの苦しみ (四苦) があるということを知るのです。それからというもの、鬱々とした日々を過ごす毎日…。そして29歳の時、とうとう嫁と子どもを残して出家します。最初は肉体を苦しめることで悟りを開こうとしました。いばらの中を寝転がってみたり、断食をしてみたり…でも結局は何も得られません。湧き上がってくるのは欲望だけ。欲望のもぐら叩きを繰り返しただけなのです。そして彼は精神的な修行に切り替えます。そして35歳の時、ブッダガヤの菩提樹の下で、ようやく悟りを開くのです。ブッダ誕生の瞬間です。悟った後のガウタマは、とても幸せそうで、仏典の中でもよく笑っています。うふっと笑って、眉間から光を放ったりします。

 

生徒:えっと…本当は2行目あたりでツッコミたかったんですけど全部聞いちゃいました。

 

しま:あ、もちろん本当に右脇から生まれたわけじゃないよ!この右脇ってのは階級の比喩なんだ。ブッダクシャトリヤ階級出身ってことで右脇なの!例えばヴァイシャは下半身から生まれるし、シュードラは足から生まれてくるわけ。

 

生徒:もうツッコミません。で、当時のクシャトリヤって強かったんです?

 

しま:そういえば時代背景のことを話して無かったね!インドでは前6世紀頃から、城壁で囲まれた都市国家が形成され始めます!代表的なのがマガタ国やコーサラ国!マガダ国が最有力で、コーサラ国はラーマ王子という人の名前だけ覚えておけば十分!ただ、この都市国家がいつもケンカしているんです。すると、戦争の功績でクシャトリヤ(王侯や戦士)が、商業の発展でヴァイシャ(商人)が台頭してくる。でも、当時はバラモン最強のバラモン教があったから、バラモンに支配されている。それに対抗する形で新たな宗教が登場し始める。

 

生徒:それが仏教!ってことですね!

 

しま:そういうこと!あと、同時期にジャイナ教っていう宗教も誕生しているんだ!開祖はクシャトリヤ出身のヴァルダマーナ(尊称:マハーヴィーラ)!ちょっと図表の写真を見てごらん!

 

生徒:あれ?なんでマスクして、ほうきをぶら下げてるんですか??

 

しま:これは、ジャイナ教の戒めである徹底した不殺生(アヒンサー)を守るため。もし、お喋りしながら歩いていて口に虫が入ってきたら大変だろ?だからマスクをしているし、虫が居たら払いのけるためにほうきを持っているんだ!

 

生徒:……いや、避ければ良くないですか…

 

しま:はっ!!!盲点!

 

生徒:まぁとにかく、仏教もジャイナ教バラモンの権威とヴァルナ制を否定する形で生まれたってわけですね。

 

しま:その通り!で、バラモン教もこうしちゃおれんってことで改革運動を行います!その名もウパニシャッド哲学!ウパニシャッドは「奥義書」という意味で、輪廻転生から解脱するための方法を説いています。

 

生徒:???

 

しま:あー…輪廻転生ってのはつまり、死んだらまた別の何かに生まれ変わるっていう発想ね。で、この世は苦しみなわけだから生まれ変わるってのは辛いことなの。つまり苦しみからは死んでも逃れられないってことになる。その苦しみの無限ループから逃れることを解脱って言うんだ。

 

生徒:なるほど。それで、ウパニシャッド哲学では何て説かれているんですか?

 

しま:簡単だよ。宇宙の本質であるブラーフマン(凡)と、人間の本質であるアートマン(我)は本来同一のもの(梵我一如)だから、その同一性を感じ取れば良いってだけ。だってさ、ブラーフマンからアートマンは生まれるわけだから、それは本質的に同じでしょ?で、輪廻転生ってシステムもブラーフマンがつくりだしているわけだから、自らのアートマンとブラーフマンの同一性を自覚すれば、輪廻転生を遥か高みから見おろすことができるようになるってわけ。

 

生徒:………( ゚д゚)